「お友だちはもうスラスラ書けるのに、うちの子はひらがなが全然書けない……」「何度教えても、鏡文字になってしまう」。小1のお子さんを見ていて、そんなふうに不安になるお母さん・お父さんは、本当に多いと思います。
わたし自身、小学校の教員を10年つとめてきましたが、入学したての教室では「ひらがなの書き」に差があるのが当たり前でした。そして今、わが子が小1になって、同じように「あれ、まだこの字あやしいな」と思う場面に毎日のように出会っています。教える側と、親の側。両方を経験したいまだからこそ言えることを、今日は本音でお伝えします。
先に結論からお伝えします。小1のうちに、ひらがながまだ完璧に書けなくても、焦る必要はまったくありません。理由は、ひらがなを「書く」という行為が、大人が思っている以上にたくさんの力を同時に使う、難しい作業だからです。順番にお話ししていきますね。
なぜ、ひらがなはなかなか書けないのか
「ひらがなを書く」というのは、子どもにとって、いくつもの作業を一度にこなすことなんです。元教員の目線で分解すると、こんな感じです。
- 形をおぼえる(「あ」はこういう形、と頭に入れる)
- 線の順番をたどる(どこから書き始めて、どう動かすか)
- 鉛筆を思いどおりに動かす(手や指の細かい筋肉のコントロール)
- マスの中におさめる(大きさ・位置の調整)
大人は無意識にやっていますが、これを6歳の子が全部いっぺんにやろうとしているわけです。とくに最後の「鉛筆を思いどおりに動かす力」は、手の発達と深く関わっていて、個人差がとても大きいところです。発達がゆっくりなだけで、能力が低いわけでは決してありません。
教員時代、4月にはほとんど書けなかった子が、夏を過ぎたあたりから急にスッと書けるようになる、という場面を何度も見てきました。子どもの「書く力」は、なだらかではなく、ある日ぐんと伸びることが多いんです。だから「今できない=この先もできない」では、まったくありません。
鏡文字は「異常」ではありません
「し」が反対向きになる、「ね」と「れ」を間違える、数字の「3」が裏返る……。こうした鏡文字を見ると、つい心配になりますよね。でも、安心してください。小1のうちの鏡文字は、発達の途中でよく見られる、ごく自然なことです。
子どもはまだ「左右の向き」をはっきり区別する力が育ちきっていません。だから左右が逆になるのは、むしろ「いま発達のまっただ中ですよ」というサインでもあります。多くの子は、書く経験を積むうちに自然と直っていきます。
このとき大事なのは、赤ペンで大きくバツをつけないこと。間違いを強く指摘されると、子どもは「書くこと=怒られること」と感じてしまい、鉛筆を持つのがイヤになります。正しい字をそっと隣に書いて、「こっち向きだと、もっとかっこいいよ」と見せてあげるくらいで十分です。
家庭でできる教え方ステップ
ここからは、家庭で実際にできる教え方を、順番にお話しします。ドリルをたくさんやらせるより、ずっと効果があると感じている方法です。
ステップ① 鉛筆を持つ前に「指先を使う遊び」を増やす
意外に思われるかもしれませんが、字がうまく書けない原因の多くは「字を知らない」ことではなく、「指先がまだ思いどおりに動かない」ことにあります。だから、いきなり書かせる前に、指先を使う遊びを増やすのがおすすめです。
- ねんど遊び(こねる・丸める・ちぎる)
- 洗濯ばさみをはさむ・はずす
- シール貼り、折り紙、ブロック
- 豆やボタンをスプーンで移す
こうした「手先を細かく使う遊び」が、実は鉛筆を操る力の土台になります。遊びながら準備運動をするイメージです。
ステップ② 「書き順」より「書き始めの一点」を教える
書き順を全部覚えさせようとすると、大人も子どもも疲れてしまいます。最初に意識したいのは、「どこから書き始めるか」という最初の一点だけ。スタート地点さえ合っていれば、形は自然と整っていきます。
教室では、書き始めの位置に小さな赤い点をうってあげると、子どもがグッと書きやすくなる、という方法をよく使っていました。家でも、お母さん・お父さんが薄く点をうってあげるだけで、子どもは安心して書き出せます。
ステップ③ 「なぞる→うすい字をなぞる→自分で書く」の順で
いきなり真っ白なマスに書かせるのは、子どもにとってハードルが高いです。次の3段階で、少しずつ手をはなしていくとうまくいきます。
- ① 親が書いた字を、上からなぞる
- ② うすく書いた字を、なぞる
- ③ お手本を横に置いて、自分で書く
この「少しずつ手伝いを減らしていく」やり方は、教室でつまずいている子に対して、いちばん効果があった方法です。一気にできるようにさせようとせず、できることを一段ずつ増やしていくイメージで進めてください。

ステップ④ 子どもの「好きな言葉」から書く
「あいうえお」の順番にこだわらなくて大丈夫です。むしろ、子どもが自分の名前や、好きなキャラクター・食べ物の名前から書き始めると、ぐっとやる気が出ます。「書きたい」という気持ちがあるときが、いちばん伸びるときです。
教室でも、ふとしたきっかけでひらがなが急に書けるようになる子には、共通する流れがありました。自分の名前や、好きなキャラクター・食べものの名前から書き始めた子ほど、書ける字が一気に増えていくんです。「これ書けた!」と見せに来た一文字を大げさなくらい一緒に喜ぶと、そこから次の字への意欲がぐっと変わっていきます。焦らず、いま書きたがっている字から始めてみてください。
こんなときは、相談してもいい
基本的には焦らなくて大丈夫ですが、次のような様子が長く続くときは、担任の先生にひとこと相談しておくと安心です。心配だからではなく、「早めに様子を知っておく」くらいの気持ちで構いません。
- 鉛筆を持つこと自体を、強くいやがる
- 線を引くこと(縦・横・まる)がとても難しそう
- 本人が「できない」と強く落ち込んでいる
先生は、たくさんの子を見てきています。「家ではこんな様子です」と共有しておくだけで、学校でも目をかけてもらいやすくなります。
教室でも、「書けない」と落ち込んでしまっていた子が、少しずつ自信を取り戻していく姿を何度も見てきました。共通していたのは、「できないところ」ではなく「できるようになった一文字」に注目してもらえたときです。まわりと比べず、その子のペースで「これは書けるようになったね」と積み重ねていくと、表情がやわらかくなり、鉛筆を持つことへの抵抗も少しずつ減っていきました。
まとめ:いまは「書く力の土台」を育てる時期
小1でひらがながまだ書けなくても、大丈夫です。大切なのは、
- 「書く力」は、ある日ぐんと伸びることが多い
- 鏡文字は、発達の途中の自然なこと
- いきなり書かせず、指先遊び→なぞり→自分で書く、の順で
- 赤バツより、好きな言葉から「書きたい」を育てる
まわりの子と比べると、つい焦ってしまいますよね。その気持ちは、わたしも親としてよく分かります。でも、子どもの「書く力」は、その子のペースで必ず育っていきます。いまは、その土台をいっしょに育てている時期。どうか、お子さんの「書けた!」を、いっしょに喜んであげてください。
ひらがなの練習教材の選び方は小1ひらがな・カタカナ練習ドリルの選び方の記事でもまとめています。あわせてご覧ください。
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元小学校教員(指導歴10年)/3児を育てる現役の親(うち1人が小1)
教室で見てきたことと、わが子で試したことを土台に書いています。
「正解」ではなく「一緒に考えるヒント」として読んでもらえたらうれしいです。

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